目次
5.1 この章の位置づけ
前章までは「内容」の面—つまり、どのように問題を捉え、分析し、創造性を持って新規アイデアを提示するか—に重点を置いてきました。本章では、その内容を最終的に文章として整える段階に焦点を当てます。
- Baseの評価項目「表現力・文章力」
- 文法・語彙の正確さ
- 平易さ・分かりやすさ
- 構成上の流れ・見やすさ
- 論旨の整合性とリズム
論述問題では、「内容の正確さ」だけでなく、「どれだけ分かりやすく、読みやすく書かれているか」が評価を大きく左右します。ここでしっかり文章力を磨き、読み手に伝わる書き方を習得しましょう。
5.2 文法・語彙の正確さ
5.2.1 なぜ文法・語彙が大事か
- 読み手の信頼を損なわないため
- 誤字脱字や文法ミスが頻発すると、せっかくの主張やアイデアが軽んじられる可能性がある
- 正確な表現でニュアンスを伝える
- 「しっかり」「きちんと」「正しく」など曖昧な副詞を多用するより、数値や具体的な例を交えた表現のほうが明確になる
5.2.2 文法ミスのよくある例
- 主語と述語のねじれ
- 「高齢者が増加している問題を解決するには、子育て支援が重要である」
- どちらの話題にフォーカスしているのか、文が混乱している
- 「高齢者が増加している問題を解決するには、子育て支援が重要である」
- 指示語の乱用
- 「これ・それ・あれ」が何を指すのか曖昧
- 接続表現の不備
- 「だが」「しかし」「そして」の使い方が場当たり的で、論理関係が不明確
5.2.3 語彙選択のポイント
- 専門用語の扱い
- 使うときは定義を入れる、もしくは一般用語に言い換えた後、カッコ書きで専門語を示す
- 抽象語と具体語のバランス
- 「社会の活性化」「多様性の重視」など抽象語だけではイメージが伝わりにくい
- 「GDP成長率2%を目指す施策」「高齢者の就業率を10%引き上げる具体策」など、できるだけ具体例を挙げる
5.2.4 文法・語彙をチェックする方法
- 音読する
- 文法が破綻している箇所は、声に出すと違和感が分かりやすい
- ツールの活用
- ワープロソフトの文法チェック機能、校正ツールなどを併用
- 第三者に読んでもらう
- 主観では気づかない誤字脱字や不自然な言い回しを指摘してもらう
5.3 平易さ・分かりやすさ
5.3.1 文章の難易度を下げるメリット
- 多くの読み手に訴求できる
- 政策論や社会問題のように読者層が広いテーマでは、専門用語を連発すると理解が追いつかない場合が多い
- 思考の明確化
- 曖昧な表現は、書き手自身の思考が整理しきれていない可能性を示唆する
5.3.2 わかりやすく書くための工夫
- 一文一意
- 1つの文に複数の主張を詰め込みすぎない。長すぎる文は区切る
- 箇条書き・段落分けの活用
- 要点を整理して読みやすくする。例:「(1) ○○、(2) ××、(3) △△」
- 類語・重複表現の整理
- 同じことを違う言い回しで繰り返しすぎない
- 例示の多用
- 「保育施設の少なさが問題」と書くより、「◯市では待機児童が毎年100人以上発生している」と示す方がイメージしやすい
5.3.3 専門用語解説の入れ方
- 本文中で簡潔に定義
- 「出生率(ある集団の1年間の出産数を指す)は年々低下傾向にある」など
- 脚注や注釈
- 本文の流れを崩さずに専門用語を補足できる
- イラストや図表も有効
- 統計グラフや人口ピラミッドを入れると視覚的に理解が促進される
5.4 構成上の流れ・見やすさ
5.4.1 段落・見出しのメリハリ
- 見出しレベルを明確に
- 大見出し(章レベル)、中見出し(節レベル)、小見出し(項レベル)を階層的に振り、読み手が道に迷わないようにする
- 適度な改行
- 長文を連ねるのではなく、話題が変わるタイミングで改行・段落分けし、目に優しい文章を心がける
5.4.2 接続詞・接続表現で論を繋ぐ
- 代表的接続詞
- 逆接:「しかし」「一方で」「ところが」
- 添加:「さらに」「また」「そのうえ」
- 整理・要約:「つまり」「総じて」「要するに」
- 因果:「したがって」「ゆえに」「それゆえ」
- 使いすぎ・乱用に注意
- 文頭が常に「しかし」で始まると、読者が混乱する
- 「一方で」や「ところが」の使い分けも意識する
5.4.3 見た目の読みやすさ
- 箇条書き・表組み・図解
- 社会問題・政策論述ではデータや事例が多いので、適宜グラフや表を挿入すると伝わりやすい
- 強調表現の工夫
- 太字や下線、色分けなど。過剰にならない程度に使い分ける
5.5 論旨の整合性とリズム
5.5.1 論旨整合性の最後の仕上げ
- 表現面での整合性チェック
- 序論と結論で使うキーワードが一致しているか?(例:序論で「少子化」を扱うと宣言しておいて、結論で「高齢化」ばかり語るのは整合性がない)
- 文と文、段落同士の関係
- 「さらに」「しかし」「それゆえ」のあと、意味がちゃんと通じているか、文脈が切れていないかを確認
5.5.2 リズム(文体・テンポ)の重要性
- 読者が飽きない構成
- 長文と短文をバランスよく配置して、テンポの変化をつける
- 単調な繰り返しを避ける
- 同じ接続詞や表現を多用しすぎると文章が平板になる
- 効果的な強調や脱線も時には有効
- 場合によっては短いコラム風の一文を挟み、読者をハッとさせる
5.5.3 具体例:短め・長めの文を組み合わせる
- 短文例
- 「問題は山積している。」
- やや長めの文例
- 「なぜなら高齢化が地域の医療・介護財政を圧迫し、同時に若年層の流出が止まらず、税収が減っているからである。」
- まとめ
- 「したがって、本稿では税収増と介護財政改革を同時に進めるための仕組みを提案する。」
このように長文・短文をうまく組み合わせることで、読みやすく調和のとれたリズムを生み出せます。
5.6 演習問題:表現力・文章力を鍛える
演習1:リライト練習
- 指示
- 元の文章(500字程度、文法ミスや冗長表現が含まれている)を提示
- 学習者は「読みやすさ」を最優先に、文法修正・段落整理・接続詞の適切化などを行う
- ポイント
- 「一文一意」を意識しつつも、リズムが単調にならない工夫を加味する
演習2:難解文をわかりやすく翻訳する
- 指示
- 高度な専門書や政策文書の一部(100〜200字程度)を提示
- 一般の読者向けに「かみ砕いた文章」に書き直す
- ポイント
- 必要な部分だけ専門用語を使い、あとは具体例や数値で補足する
演習3:視覚的整理(表・グラフ・イラスト)を取り入れる
- 指示
- 数値データ(高齢化率や出生率推移など)を与え、簡単なグラフを作成する
- そのグラフを本文中でどう言及するか、原稿を作ってみる
- ポイント
- 「グラフの読み取り方」「本論との関係付け」を明確に記述する
5.7 学習理論・応用ヒント:読者モデルと多層リテラシー
5.7.1 読者モデルを意識する
- 誰に向けて書いているのか
- 政策担当者、一般市民、専門家、学生など、想定読者を意識すると文章の調子や難易度が変わる
- 読者のリテラシーレベル
- 「自治体の背景知識をどの程度持っているか」を想定し、説明の詳しさを調節する
5.7.2 多層的情報提供
- 本文は平易に、補足資料で詳しく
- 一般読者には概略を、専門家には補足文献や注釈で深堀り情報を提供
- インフォグラフィックの活用
- 関連データを一枚の図表にまとめると、内容理解が飛躍的に進む場合が多い
5.8 まとめと次章への接続
- 本章のポイント
- 文法・語彙の正確さ:誤字脱字を防ぎ、正確で端的な表現を心掛ける
- 平易さ・分かりやすさ:一文一意、具体例、箇条書き等で読みやすく
- 構成上の流れ・見やすさ:段落・見出し・接続表現でスムーズに論を展開
- 論旨の整合性とリズム:序論〜結論を貫く一貫性と、読者を飽きさせないリズム感を両立
- 次章(第6章「根拠・裏付けの提示」)へのつながり
- 文章がどんなに読みやすくても、根拠が不十分では説得力を欠きます。
- 次章では、論述を補強するための「具体的データ・事例の提示」「引用・参考文献の正しい示し方」「情報の信頼性・多角性」の確保などを扱い、さらに論述の完成度を高めていきましょう。
コラム:言葉の力を最大限に活かす—比喩やストーリー性の取り入れ
時に、社会問題の論述であっても比喩表現や短いストーリーを挟むことで、読み手の理解・共感を呼ぶ例があります。
- たとえば「高齢者施設は社会から孤立した“島”のようなものだ」という比喩を使うと、イメージが浮かびやすい。
- ただし、過度に文芸的表現を盛り込みすぎると、かえって論旨が分かりにくくなる可能性もあるため、バランスが肝心です。
- 大切なのは、論旨を補強する目的で表現を使うことであり、飾り過ぎないところに気を配りましょう。
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