目次
7.1 この章の位置づけ
- Baseの評価項目「問題解決・提案力」
- 設問との整合性
- 具体的行動プランの提示
- リスク管理・反論への備え
- 多様なステークホルダーの考慮
前章までで、課題を捉え、論を組み立て、根拠を提示する技術を身につけました。しかし、論述問題では最終的に**「どんな施策・プランを提案するか」**が評価の大きなポイントになる場合が多いです。本章では、複数の利害関係者(ステークホルダー)やリスクを踏まえつつ、現実的で説得力のある解決策をいかに提示するかを学んでいきます。
7.2 設問との整合性
7.2.1 なぜ設問との整合性が重要か
- 論点ずれを防ぐ
- いくら素晴らしい提案でも、設問の要求と無関係であれば“的外れ”扱いされかねない。
- 読者(採点者)のニーズに応える
- 小論文・レポート・研究論文等のいずれも、課題文やテーマがあり、そのゴールに照準を合わせる姿勢が不可欠。
7.2.2 設問の要求を再確認する
- 解決策の範囲
- 「地域コミュニティの活性化を目的とした少子化対策」に関する問題であれば、コミュニティ形成を促す施策を重視する。
- 高齢者向け対策は補足程度にとどめ、あくまで“コミュニティ活性化×少子化”の文脈に沿った提案を中心に据える。
- 論述文字数・ボリューム
- 設問の指示に応じ、必要以上に長大なプランを羅列するよりは、要点を絞った現実的な提案に焦点を当てる方が評価されやすい。
7.3 具体的行動プランの提示
7.3.1 曖昧な理想論を避ける
- 悪例:「少子化を防ぐために国が積極的に支援すべきだ」
- これでは「何を、誰が、どのように実行するのか」が不明確。
- 改善例:「国が補助金を3年間拡充して、保育所の定員数を現在の1.2倍に増やす。また、自治体は民間企業の参入を後押しし、人材確保のための研修費補助を導入する」
- ここまで書くと、“誰が何を、いつ、どうやって”実施するかが明確になり、具体性が増す。
7.3.2 誰が・何を・いつ・どう実行するか(5W1H+資源)
- Who(誰が):国・自治体・民間企業・市民団体・NPOなど
- What(何を):保育施設増設、介護人材育成、起業支援、税制優遇など
- When(いつ):1年後にモデル事業、3年後に本格導入、○○年度の予算で実施
- Where(どこで):地方都市A・B、全国規模、一部先行地域など
- How(どのように):法改正、条例制定、ITプラットフォーム構築、業界団体との協働
- 資源(予算・人材・技術など):財源は一般会計から、研修講師は大学や民間シンクタンクを活用、など
7.3.3 実行プロセス・ロードマップの提案
- 段階的な導入
- 例:「まず202X年度内にモデル自治体で試行→ 成果を検証→ 改善点を洗い出し→ 202Y年度から全国に拡大」
- 成功指標(KPI)の設定
- 例:「若者の転出率を現状の10%から3年後に5%に抑制」「要介護認定率を○%改善」
- モニタリング・評価体制
- 導入後に定期的な評価委員会を開催し、施策の修正を検討するプロセスを組み込む
7.4 リスク管理・反論への備え
7.4.1 反論やリスクを予め想定する意義
- 現実性のアピール
- 「こんなリスクや障害が予想されるが、こう対処できる」という説明があるほど、提案が現実的に響く。
- 説得力向上
- 自分の提案を盲信するのではなく、批判や課題に自ら言及して先に対処策を示すと、読み手は安心感を抱く。
7.4.2 リスクの種類と対処例
- 財政面のリスク
- 提案施策にかかる費用が膨大になる→ 補助金やクラウドファンディング、民間投資の活用を模索
- 人材面のリスク
- 専門人材が不足している→ 研修制度や留学生受け入れ、ほかの地域からの人材流動を促す
- 文化・社会的抵抗
- 新しい仕組みに住民が抵抗感をもつ→ PRキャンペーンや住民説明会を実施して理解を深める
- 法律・規制の壁
- 既存の法制度で実施が難しい→ 規制緩和特区の活用、法改正提案
7.4.3 反対意見への備え
- 事前に反対意見を想定し、Q&Aを作っておく
- 例:「財源が足りない→ 一部を税制優遇でまかなう。結果的に消費を喚起し税収アップが見込める」
- 柔軟なアプローチ
- 相手の意見を頭から否定せず、一部を取り入れて修正プランを提示する場合もある
7.5 多様なステークホルダーの考慮
7.5.1 ステークホルダーとは
- 利害関係者:国・自治体、企業、住民、NPO、国際機関、専門家団体、メディアなど
- 全員が同じ方向を向いているわけではない
- 保育所増設→ 近隣住民から騒音・安全面の反対があるかも
- 外国人労働者の受け入れ→ 地域住民の不安や文化的ギャップ問題が浮上
7.5.2 各ステークホルダーの立場を可視化する
- ステークホルダー分析表
- 誰が
- 何を求めているか(メリット)
- どんな懸念があるか(デメリット)
- 解決策・調整方法は?
- WIN-WINのシナリオを模索
- 企業も得をして、住民も便利になる施策づくりが理想
- ただし全員を満足させるのが難しい場合、「譲り合い」「緩衝策」の提案が必要になる
7.5.3 合意形成プロセスの重要性
- 公共政策では特に大切
- 「説明会→パブリックコメント→修正→議会承認→実行」という民主的プロセスを無視すると反発を招きやすい
- “誰がいつ関与して、どこで決定するか”を計画
- 例:有識者委員会を設け、半年かけて議論→ 施策実行前に住民投票を行う→ 多数の合意を得られれば本格施行
7.6 事例:問題解決・提案の実践例
ここでは、具体的な提案のまとめ方をイメージできるよう、少子化・高齢化に絡む事例を示します。
7.6.1 例:地方都市Aの若者定着・高齢者福祉を同時に推進する提案
- 提案の背景
- 地方都市Aでは、若年層の転出が深刻(毎年○百人の流出)、一方で高齢者比率30%超という状況。
- 具体プラン
- (1) 起業・就職支援の拡充:
- 市役所と地元金融機関が連携し、若者向けベンチャー支援資金を創設。
- 3年間で最大1000万円の低金利融資を行い、成果を定期的にモニタリング。
- (2) “シェアオフィス×シニア交流”拠点の設置:
- 空き店舗を改装して若者のコワーキングスペースを作り、高齢者が日中ボランティアで地域の歴史・伝統を教えるプログラムを提供。
- (3) 公共交通・福祉の統合改革:
- 高齢者用送迎バスルートと若者向け交通ニーズを共存できる形で再編。
- (1) 起業・就職支援の拡充:
- 実行手順・スケジュール
- 202X年度:パイロット事業開始(予算○千万円)
- 202X+1年度:成果検証→ 課題修正→ 追加予算申請
- 202X+2年度:市全域への本格導入
- リスクと対処策
- 財源不足:企業スポンサー、クラウドファンディングを併用。
- 住民の抵抗:事前に住民説明会を複数回実施し、質問・要望を集約。
- ステークホルダー考慮
- 行政(市役所)・金融機関・商工会議所・NPO・住民団体などを含む協議会を設立し、定期的に会合を開く
- 期待される効果
- 若者のUIターン促進、シニアの社会参加増加、地域経済・文化の活性化
- KPI:転出率の5年連続減少、介護費用の削減率○%、シニアボランティア登録者数の増加など
7.7 演習問題:問題解決・提案力のトレーニング
演習1:ステークホルダー分析シート作成
- 指示
- テーマ例:「地域での子育て支援の強化」
- 国・自治体・企業・住民・NPOなど主なステークホルダーを列挙し、それぞれのメリット・デメリットをまとめる
- その上で、どのような合意形成手段を用いるか案を示す
- ポイント
- 反対意見や抵抗を受けそうな要素をあえて洗い出し、対策を検討する
**演習2:ロードマップ提案】
- 指示
- 受講者が興味ある社会課題(少子化、高齢化、環境、教育など)を1つ選ぶ
- 自分が考える解決策を「モデル事業→本格導入→評価・調整→拡大」という流れで段階的に整理し、A4一枚に書く
- ポイント
- どれくらいの期間をかけ、どのように成果を測定し、どのタイミングで軌道修正するかをはっきりさせる
演習3:リスク・反論集への回答を作る
- 指示
- 仮の提案「介護施設の人材不足を外国人労働者で補う」と設定
- 反対意見を複数想定(言葉の壁、文化の違い、治安面、賃金の問題など)
- 各反対意見に対してどう対応・改善策を打ち出すか、Q&A形式でまとめる
- ポイント
- 一方的に「問題ない」と言い切るのではなく、懸念を現実的に解消するプロセスが説得力を高める
7.8 学習理論・応用ヒント:プロジェクト学習・PBL(Project Based Learning)
7.8.1 PBLの要素
- 実践的課題を設定
- 例えば「地元商店街の高齢化と少子化をどう乗り越えるか」という具体的テーマ
- チームで解決策を作り上げる
- ステークホルダーインタビュー、現地調査、データ分析などを行い、試作品(プロトタイプ)を検証
- フィードバックと再提案
- 提案を出して終わりではなく、関係者からフィードバックを受けて修正を繰り返す
7.8.2 論述教育でのPBL活用
- アウトプットが具体的になる
- 単なる文字の羅列で終わらず、実際の行動計画や予算案まで組み込む
- 総合的な力が養われる
- 問題理解・分析・根拠提示・表現力・合意形成など、これまで学んできたあらゆるスキルを統合的に使う場面がPBL
7.9 まとめと次章への接続
- 本章のポイント
- 設問との整合性:論題を外さず、指定された範囲・条件を踏まえた提案を行う
- 具体的行動プラン:誰が・何を・いつ・どう実行し、どんな資源を使うかを明確化
- リスク管理・反論への備え:財政面・人材面などの問題を想定し、対策や合意形成手順を示す
- 多様なステークホルダー考慮:国・自治体・住民・企業などの利害を調整し、実行可能な形に落とし込む
- 次章(第8章「結論・総合力」)へのつながり
- 問題解決・提案力でまとめた施策案が「最終的にどのような結論を導くか」、また文章全体としての完成度をどう高めるかが次のステップです。
- 第8章では、論述を終局へと収束させ、読者に強い納得感やインパクトを与える「結論・総合力」のまとめ方を学びます。ここまでの全要素(分析・構成・根拠・創造性・提案)を融合し、論文としての最終仕上げを目指しましょう。
コラム:一度書いて終わりではない—提案のブラッシュアップ
社会課題に対する提案は、書き上げた後に何度も修正・ブラッシュアップするのが当たり前です。
- 意見を出してもらい、反論を受けつつ「ここは改良できる」「ここの財源算出が甘い」など学びが得られる。
- 実際の政策立案でも、「執筆→レビュー→修正→再レビュー」のプロセスを繰り返すのが普通。
- 論述練習でも、提出後のフィードバックで修正し再提出するサイクルを取り入れると、確実に実力が伸びていきます。
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