前章(第3章)で「実験・計算方法」を詳細に示しましたので、本章では、そこで得られた測定データやシミュレーション結果などを事実ベースで報告します。ここは考察や解釈をする章ではありませんので、あくまでも客観的な「結果」を淡々と提示し、読者が「何がどのように測定・計算されたか」を容易に把握できるようにすることが重要です。
※ 誤差、不確かさ、ばらつき、など、言葉の定義に注意してください。
4.1 結果データ(図表)の正確性・明瞭性
4.1.1 なぜ「図表の正確性・明瞭性」が重要か
- 第4章は読者が最も目にするパートの一つで、ここで提示される**データ(数値・グラフ・表)によって、後の考察(5章)**が成り立つかどうかが決まります。
- 図表が雑であったり、軸ラベルや単位が不明確であると、せっかくの結果が読者にきちんと伝わらず、評価が下がるだけでなく、再現性も疑われる場合があります。
4.1.2 書き方の全体像
- どのような測定・計算で得られたデータかを冒頭で概観
- 「3章の手法で温度1500K、燃料比CH4:H2=80:20にて実験を行った結果を図4-1に示す」など、どの条件のデータなのか明示。
- グラフ・表をわかりやすく
- 軸ラベル(量と単位)、凡例(赤線: 条件A、青線: 条件Bなど)、キャプションを明確にし、「図4-1に…示す。」「表4-1に…まとめる。」など本文からも参照。
- 結果は“事実”ベースで記述
- 「時間t=200秒後に温度Tが1700Kに達した」「燃焼速度は○○の値を示した」など観察された事実に限り、考察は避ける。
- もし簡単な解説が必要なら「図4-2のように傾向が見られた。詳細は5章で考察する」程度で留める。
4.1.3 具体例の書き方
(冒頭の導入)
本章では、3章で設定した条件のもとで得られた測定・計算結果を示す。まず、温度1500Kでの燃焼挙動を図4-1に示し、その後2000K・2500Kの場合を図4-2、図4-3に示す。燃料比の異なる条件(CH4:H2=100:0, 80:20, …)の結果は表4-1にまとめた。(図・グラフの提示例)
図4-1に燃焼開始から300秒間の圧力変化を示す。横軸は時間t[s]、縦軸は圧力P[atm]である。赤線がCH4のみ、青線がCH4:H2=80:20の場合を示している。約200秒後には圧力が定常化し、CH4:H2=80:20の条件では最終的に1.05atmを維持した。一方、CH4=100%の場合は1.00atm付近で安定した。(表の提示例)
表4-1には、燃料比・温度ごとの燃焼速度測定値(v[m/s])をまとめている。平均±標準偏差の値を記載し、最大誤差は±0.03m/s程度となった。なお、精度評価は3.4節で述べた手法に準じて行った。(事実ベースのコメント)
このように、H2の混合比が増加すると、燃焼速度vはおおむね上昇傾向を示した。詳細な理由や物理的解釈は、次章(第5章)で議論する。
4.1.4 注意点とNG例
- 誤記・誤植
- 軸ラベルの単位が誤っている、図や表の番号がずれているなどは非常に多いミス。要注意。
- 考察の混入
- 「これは××だからこうなるに違いない」と深い解釈を書いてしまうと、5章の考察と混同し、章立ての意味が薄れる。あくまで事実の報告に留める。
- 図表が多すぎて冗長
- 得られたすべての実験データを細かく載せると膨大になる場合、主要なものを選抜し、詳細は付録に回すなど工夫する。
4.2 図表やプロットの説明・凡例・軸設定の適切さ
4.2.1 「図表の説明や設定」のポイント
- “どの軸が何を示しているか”:軸ラベル・単位を正しく書く。「Time [s]」「Temperature [K]」など。
- 凡例(Legend)の明確化:条件AとBで線色や線種を変える。キャプションや本文で「赤線=CH4=100%」と説明。
- 軸範囲の適切さ:無駄に拡大縮小して読者が見づらくならないように注意。
- 一貫した書式:全体で線の太さ、文字フォント、記号の形などがばらばらだと読みにくい。
4.2.2 書き方の全体像
- グラフや図を出すたびに、まず「図4-xに〜を示す」と本文で言及
- キャプションを簡潔に
- 「図4-1:温度1500Kにおける圧力変化の測定結果(赤線=CH4=100%、青線=80:20)」
- 必要に応じて補足
- 「縦軸は対数スケールにしており、小さい変化を強調している」「横軸の原点は燃焼開始時刻」など図の特徴を解説する。
4.2.3 具体例の書き方
(図表の説明例)
図4-2に温度2000Kでの燃焼速度測定結果を示す。横軸は燃料比CH4:H2、縦軸は燃焼速度v[m/s]である。赤の四角が実測値(平均±標準偏差)、青の破線は3章で述べたモデル計算結果を参考としてプロットしている。凡例は図中右上に示す。本図からは、H2比が増加するに従い燃焼速度が約10〜20%上昇する傾向が見られたが、詳細な理由は5章にて考察する。軸範囲は燃料比0〜100%をカバーし、燃焼速度0.0〜0.8m/sを表示。なお、誤差バーは±1標準偏差を示し、サンプル数n=3で計測した。
4.3 結果に対する定量的・事実ベースの記述
4.3.1 「事実ベース」とは
- 4章のキーワードは「事実の列挙」。考察や推測を排し、「こういう値が得られた」「こういうグラフが得られた」と冷静に書く。
- 例:「200秒後に温度が1700Kを示した」(事実)
- 例:「この結果は表面吸着が効いてる証拠であると考えられる」(解釈・推測 → 5章の考察に回す)
4.3.2 書き方の全体像
- 定量値や定性結果を箇条書きなどで整理
- 「(1) 燃焼開始から200秒で定常化、(2) 定常圧力は1.05atm、(3) 温度分布は上下差が100K程度…」など。
- 必要に応じて最小限の補足
- 「想定の範囲内」「通常ありえない数値だった」など、事実に付随する前提情報を加える。
- 根拠や引用はどうしても必要なら入れる
- 「この温度分布は文献[8]でも確認されている範囲とほぼ一致」など、客観性を与えるため。
4.3.3 具体例の書き方
(定量的記述の例)
表4-2に示すように、CH4:H2=100:0では燃焼速度が0.35±0.02m/s、80:20では0.42±0.03m/s、60:40では0.47±0.02m/sという結果を得た。温度2000K条件における燃焼速度の最大値は0.47m/s付近であり、最小値との差は約34%となる。
この範囲は、先行研究[9]の報告(0.3〜0.5m/s)とほぼ一致しており、3.4節で示した誤差見積もり範囲内に収まっている。
4.3.4 注意点とNG例
- 感想や推測が多い
- 「燃焼速度が上がったのはH2が可燃性が高いからだ」→これは考察(5章)で書くべき。
- データが文献と比べて大幅にズレているのにノーコメント
- 事実の記述であっても、あまりに異常値なら「数値が大きく異なるが、5章で原因を考察」と伝える程度はしてもよい。
- 定量の軸ラベルがなく「速度が上がった」など主観表現だけ
- 読者は「具体的に何m/sがどう変化したの?」と分からず困る。
4.4 結果の妥当性(不確かさ、精度)の考慮
4.4.1 なぜここで「妥当性」を再度強調するのか
- 3.4節で「再現性・客観性」の工夫や誤差評価を説明しましたが、実際に得られた結果が「その誤差範囲において信頼できる」ことを本章で改めて示す必要があります。
- 読者は「測定器の誤差±3%って書いていたけど、実際のデータには誤差バーはどれくらい付いているの?」と気にするので、結果とともに再度確認します。
4.4.2 書き方の全体像
- 誤差バーや±範囲を図表に反映
- 「図4-3ではエラーバーを付与し、±1標準偏差を表した」など。
- 文献比較や理論値との比較
- 「文献[10]では同条件で0.35m/sを示唆、本実験0.37±0.02m/sは妥当といえる」
- 不確かさや外れ値への言及
- 「燃料比20:80の測定で外れ値が見られたが、装置調整の影響の可能性あり。詳細は5章で議論」など最低限触れる。
4.4.3 具体例の書き方
(妥当性評価例)
図4-3のプロットには±1σ(標準偏差)の誤差バーを付けている。最大で±0.03m/s程度の変動が見られるが、これは3.4節で推定した誤差(±0.04m/s)の範囲内にあり、再現性は概ね確保されていると判断する。
また、文献[11]で同様の燃料比(60:40)を用いた結果(約0.46m/s)とも数値的に合致し、本実験が妥当な値を示していると言える。ただし、H2比80%条件では若干大きめの値(0.55m/s)が得られており、3回測定中1回が外れ値を示したため、後の考察(5.2節)で原因を検討する。
4.4.4 注意点とNG例
- 「なんとなく妥当と思う」
- 根拠なく「問題ない」と書いても読者は納得しない。文献比較や誤差バーなどを活用し、客観性を高める。
- 異常値に全く触れない
- せめて「ここで異常値が出たが原因は不明、5章で仮説を提示」など一言を書くのが望ましい。
まとめ:第4章 全体
4.1 結果データ(図表)の正確性・明瞭性
- 測定・計算結果を図表で分かりやすく提示。軸ラベル、単位、凡例、キャプションを適切に配置し、読み手が迷わないようにする。
- 考察抜きで客観的事実を述べる。
4.2 図表やプロットの説明・凡例・軸設定の適切さ
- グラフの配色や凡例の書き方、スケールの選択に注意。
- 本文中で「図4-xに示すように…」と参照し、キャプションでも補足説明を加える。
4.3 結果に対する定量的・事実ベースの記述
- **「〜した」「〜を示した」**という過去形で言い切り、「〜と考えられる」などの推測は排除。
- 数値や範囲を具体的に書き、論理性を確保。
- 大きく異常な値が出たら「原因は5章考察で検討」と繋げる。
4.4 結果の妥当性(不確かさ、精度)の考慮
- 誤差バーや標準偏差を再度表示し、3.4節で述べた誤差評価と一致しているかを示す。
- 文献比較・理論値比較を行い、**「得られた値は概ね信頼できる」**と客観性を補強。
次のステップ
こうして第4章で事実としての結果を明確に提示したうえ、次の**第5章「考察」では、「それらの結果をどう解釈するか」「仮説は立証されたか」**を論じることになります。
章立て上、4章で結果を見せる→5章で解釈することで、「データ(事実)」と「その解釈(考察)」を分けて読者に理解させやすい構成が維持されるのです。
第4章が充実かつシンプルに書かれていると、5章での議論(「モデルとの照合」「先行研究との比較」など)が非常にスムーズになります。